父の代からクリニックを支えてくれている看護師長と受付・事務担当と、それから私が採用したばかりの看護師まで、全員やめるって言うんです!
E院長は、周辺に住宅地が広がる駅前の好立地で、診療所を営んでいます。
先祖代々、医者の家柄で、E院長は急逝された親御さんの建物・設備、そして従業員と患者さんを引き継いで、恵まれた条件でスタートを切った筈でした。
Eクリニックには、インターナル・マーケティングが欠けていました。
従業員の動機づけと満足度の向上により、サービスの質的向上、顧客ロイヤリティの向上、企業業績の向上を図ります。サービス業は従業員の対応が顧客満足度に大きく影響することから、積極的、継続的にスキル向上、モチベーション向上に取り組む必要があります。
【具体例】
- 店長から従業員にサービスを提供する目的、思いを伝える
- 質の高いサービスに向けた、従業員向けの技術・知識の習得
- 従業員へのサービスの自由裁量
- 事業者と従業員、従業員同士の円滑なコミュニケーション
- 評価、賞賛、報奨、個人面談
*出典:中小機構「小規模事業者支援のための業務必携p.87」
父の代からいる看護師長さんは「院長先生が採用した新しい看護師とは、一緒に仕事ができません」とまで言うんです!
Eクリニックでは、院長にインターナル・マーケティングの観点が欠けていたので、新しい人材の採用について、細心の注意を払ってはいませんでした。
そのため、看護師長から、「受付・事務担当と看護師の間がギクシャクして、仕事になりません!」とクレームを受けることになってしまったのです。
人材採用に失敗した3つの理由
- 企業の経営理念に共感して加わった人材ではなかった
- 独断で選考を行って採用を決定した
- すぐに本採用にした
それではE院長は、どのように採用を行えば良かったのでしょう?
人材採用で失敗しないための①:経営理念
企業としての経営理念を説明の上で、そこに共感や納得をしてくれる人材を採用する必要がありました。
経営理念は、明文化することで、内外の関係者に向けて自社の価値観を表明し、共有することができます。企業内部に向けては、経営者や社員の判断や行動の基準を与えます。
- アサヒ飲料株式会社「わが社は飲料事業の分野で社会や市場の変化に対応し、高品質で安全な商品と真心のこもったサービスの提供を通じて、豊かで健康な食生活の実現に貢献し、限りなく発展する企業を目指す。
- 伊藤忠商事株式会社「伊藤忠グループは、個人と社会を大切にし、未来に向かって豊かさを担う責任を果たしていきます。」
- 株式会社サイゼリア「人のため・正しく・仲良く」
- 楽天株式会社「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」
いずれも企業・組織としての価値観が明示されており、経営に対する姿勢や顧客との関わり、社会に対する責任などが端的に述べられていると言えるでしょう。
出典: 中小機構「起業マニュアル・経営理念・経営理念を定めることの意義/経営理念の例」
E院長は、先代の急逝で急きょ跡継ぎせざるを得ない、という気の毒な状況にありました。
経営者としての理念を考えている余裕など、ありませんでした。
とは言え、そのために人材の採用に際して、クリニックの経営理念を説明することが叶いませんでした。
それでは採用される側には、給料・賞与、勤務時間・休日数、通勤の利便性、などの待遇や条件しか企業を選択する基準がありません。
その結果、待遇や条件にしか興味のないレベルの人材しか集まらないことになります。
人材採用で失敗しないための②:選考方法
新たに採用する人材の入社後、一緒に働くことになる上司や先輩従業員に、書類選考や面接に協力してもらう必要がありました。
その理由は、以下の二つが考えられます。
- 職務に必要なスキルと知識の有無を、現場の感覚で具体的に確認できる
- 顧客とのコミュニケーションや、職場スタッフとの協調がスムーズにできそうな人柄であるか、確認できる
また、新たに採用される人材に対して、業務を教える立場でより密接に接する必要があるため、採用後に問題になる前に、上司や先輩従業員による確認を行うことが安心材料となります。
特にE院長の場合、スタッフのことも患者さんについても、親御さんの代からのベテラン・スタッフのほうが詳しいので、アドバイスを求めるべきでした。
人材採用で失敗しないための③:試用期間
本採用の前に、試用期間を設けることで、職場へのミスマッチがあっても最悪の事態を回避できます。
人材採用で失敗しないための④:職場へのミスマッチを予防する採用制度
以前に一緒に働いたことがある人材であれば、持っているスキルと知識や、人柄について、既に確認が済んでいますので、採用後に職場へのミスマッチが発生するリスクが低い筈です。
「リファラル採用」は、自社の従業員に、以前の勤務先の同僚などを紹介してもらう制度です。
また「カムバック制度」は、以前勤務していた人材を、再度雇用する制度です。例えば結婚や出産などの個人的な都合などで、惜しまれつつ退職した人材を、復職してもらうことで活用することができます。
いずれの採用制度も、即戦力の人材を採用できる上に、広告費等の採用コストを削減できるメリットもあります。
制度の円滑な運用について、「リファラル採用」では、元同僚等を紹介する自社の従業員に報奨金を提供することで、人材紹介の促進を図ることができます。
また「カムバック制度」では、再雇用される従業員にメリットを与えることで、積極的な活用を図ることができます。例として、退職時点の評価・報酬から再スタートする等 、新規採用とは別格とする待遇が考えられます。企業側のメリットとして、厚生労働省の再雇用制度の条件に該当すれば、助成金の対象となります。
再雇用制度とは:
育児・介護休業法第27条に基づく制度であり、妊娠、出産、育児、介護または配偶者の転勤を理由とする退職者が、当該退職した事業所の事業主等に再び雇用されることについて特別に配慮する制度をいいます。
支給額:
再雇用人数 | 中小企業 | 中小企業以外 |
---|---|---|
1人目 | 38万円 | 28.5万円 |
2~5人目 | 28.5万円 | 19万円 |
*出典:厚生労働省「再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)」
まとめ:人材採用に成功するための4つのポイント
- 経営理念の説明
- 選考過程への、上司・先輩の参加
- 試用期間の設定
- 職場へのミスマッチを予防する「リファラル採用」、「カムバック制度」の導入
今回は以上です。