原材料費が年々あがっているので、利益は減る一方なんです!
製造業を経営しているB社長からの相談です。
3年分の決算書と経営資料を拝見して、ベテラン・スタッフから業務プロセスを伺ったところ、B社の課題が判ってきました。
利益の改善のためには、まず正しい原価の把握が必要
B社は、BtoBでメーカーに特殊なパーツを製造・販売しています。
製品のほとんどが取引先ごとのオーダーメイドで、典型的な多品種・少量生産です。
B社の製造部門では、製品ごとに使用する原材料の面積や重さから、製品の材料のコストだけは把握できる体制にあります。
一方で、加工の手間暇や難易度に応じて変わる作業員の労働時間を記録していなかったので、製造部門の人件費を製品別の原価として把握することができていません。
また、同じ理由から、光熱費や年々進化する高度な設備や工具の減価償却費などの経費も、製品ごとの原価には含めていませんでした。
そのためB社では、製品別の利益がわかりません。
そればかりかB社では、原価を意識しない価格が設定されているため、作っている高品質な製品を、損をして売っている可能性まであったのです。
正しい原価の把握には①:製品単品の材料の原価を把握する
まず、「製品単品の材料原価」を把握しましょう。
B社では、取引先からの受注の都度、在庫している原材料から必要な分量を使用して、製造・加工を始めます。ですから、
仕入れた原材料の総額 × (受注した製品で使う原材料の分量 ÷ 仕入れた原材料の総量) = 製品単品の材料原価
という数式で、「製品単品の材料原価」を求めることができます。
正しい原価の把握には②:生産に必要な人件費と経費を把握する
次に、製品の「費用①」を設定しましょう。
決算書の「製造原価報告書」を確認します。
その経営資料には、製品の単品ごとに分けていない原価の項目である「労務費(製造部門の人件費)」、「経費(水道光熱費、家賃、修繕費、減価償却費など)」の数字がまとめて記載されています。
これらの数字、つまり「生産に必要な人件費・経費」を便宜上、「費用①」と名付けます。
一方で同じく決算書から、「年間の材料原価」の数字を確認します。
こららの数字を把握しておけば、損益計算書の売上高総利益で損をしないためには、「材料原価」の他に、どれだけの費用を見込んで価格設定をしなければならないか、が判ります。
下の図(「みなし原価」計算表①)の例では、製品の価格を、「製品単品の材料原価」に「費用①」を加えた、「製品単品の材料原価」の1.5倍に設定すれば、売上高総利益がマイナスになりません。
言葉を換えれば、 製品の価格を、「製品単品の材料原価」に「費用①」を加えた、「製品単品の材料原価」の1.5倍「以上」に設定できれれば、売上高総利益を黒字にすることが可能になります。
項目 | 金額(単位:万円) | 倍率(対「材料原価」) |
---|---|---|
年間の材料原価 | 1、000 | 100% |
費用①(製造) | 500 | 50% |
計 | 1、500 | 150% |
正しい原価の把握には③:販売に必要な人件費と経費を把握する
最後に、製品の「費用②」を設定しましょう。
決算書の「損益計算書」を確認します。
企業の経営や製品の営業・販売に必要な経費(人件費・家賃・配送賃・出張費・販促費・減価償却費など)を「費用②」とします。
この数字を把握しておけば、損益計算書の売上高営業利益で損をしないためには、「材料原価」の他に、どれだけの費用を見込んで価格設定をしなければならないか、が判ります。
下の図(「みなし原価」計算表②)の例では、製品の価格を、「製品単品の材料原価」と「費用①」に「費用②」を加えた、「製品単品の材料原価」の1.8倍に設定すれば、売上高営業利益がマイナスになりません。
言葉を換えれば、 製品の価格を、「製品単品の材料原価」と「費用①」に「費用②」を加えた、「製品単品の材料原価」の1.8倍「以上」に設定できれれば、売上高営業利益を黒字にすることが可能になります。
項目 | 金額(単位:万円) | 倍率(対「材料原価」) |
---|---|---|
年間の材料原価 | 1、000 | 100% |
費用①(製造) | 500 | 50% |
費用②(販売) | 300 | 30% |
計 | 1、800 | 180% |
利益の改善のためには、価格の設定が重要
ここまでの表で見てきたように、B社の場合は、受注した製品の製造に必要な「材料原価」を基準にすると、その1.8倍の金額を「みなし原価」と考えることができます。
よって、「みなし原価」を意識して取引先と交渉を行い、「みなし原価」の金額を下回らない取引価格を設定できれば、少なくとも「利益を出せる価格設定」、つまり「損をしない経営」ができるということになります。
もちろん、生産に関わる労務費や経費は、実際には製品の種類ごとに異なって一律ではありませんので、この「みなし原価」の考え方は厳密でない、と感じられるかもしれません。
一方で、製品の種類の膨大さや、人手や業務システムの不足から、製品ごとの適切な原価を算出・設定することが困難で、そもそも原材料費すら意識しないで営業を行ってきたB社にとっては、原価を意識した経営への貴重な第一歩となります。
まとめ:利益の改善に必要な4つのステップ
今回は以上です。